夢中遊泳、その先に君
「すっげ、怖かった」
「…うん」
「アカリが死んだなんて嘘だって、だって俺、信じられなくて」
「…うん」
「でもどこに行ってもさぁ、アカリいねーんだもん」
「…うん」
捜し回ったんだ、夢の中で。そう言って、ヒロイチはわたしの手を握る。
「捜して、くれたの」
「うん。学校とか、公園とか、ファミレスとか…」
「…ファミレスって、一緒に勉強したことあるとこ?」
「ん、そこ。あと…あと、海辺の。防波堤とか…」
ヒロイチが握る。手の力が強くなる。
まるでそれは、わたしの存在を手探りで確かめているようで。
「アカリのこと、捜してるうちにさぁ」
「…なに?」
「言ってないこと、いっぱいあるって…気づいた」
学校。公園。ファミレス。防波堤。
ヒロイチが言う場所、わたしだって全部覚えてる。
その全部に、ヒロイチがいる。
「学校で…授業中、後ろからアカリの伸びた背筋見るの、好きだったとか」
「…ふ、見てたの?」
「うん。あと公園で…はじめて手ぇ握ったとき、ほんとは…ほんとは嬉しくて、死にそうだったとか」
「ふふ…、うん。わたしも」
「好きになってくれたのはいつかって。聞かれたときはごまかしたけど……一目惚れ、だったんだ。入学式、アカリを見つけた時から好きだった」
それで、
「まだまだいっぱい、いろんなとこ行きたいって思った。アカリと」
行ったところにも。
行きたいねって話したところにも。
まだ二人が知らない場所にも。
楽しいときだって、しんどいときだって。いつでも。
「アカリのこと、本当に好きだ」