白銀の女神 紅の王
また厄介事を持ってきたんじゃないだろうな…
視界の端に移るデュークを見て思う。
否、これ以上の厄介事はないか。
「い、急ぎ陛下にお知らせしたい事がございまして」
先程よりも低い声で応えたためか、小さな悲鳴めいた声が上がった後、家臣が口を開く。
「言え」
短くそう言えば、は、はい…と怯える声。
そして、恐々としながら家臣の口から出た言葉は衝撃的なものだった。
「後宮よりの伝達で、エレナ様が目を覚まされた…と」
「ッ……!」
「エレナさんが!?」
ウィルの驚いた声が執務室に響く。
対するデュークはと言うと…
「エレナ…と言うのか」
口元に笑みを浮かべ、噛みしめるようにエレナの名を呟く。
それがやけに気に障り、睨み上げるも、フンッと勝ち誇った笑みを返された。
「すぐ行く」
デュークの挑発的な視線を無視し、執務室を出て後宮へ向かった―――