白銀の女神 紅の王
その表情は切羽詰まった様な、焦っているような表情。
初めて見るシルバの顔だった。
ベッドの脇まで距離を詰めると、無言のまま頬に手を当てられる。
ビクッ―――
体が一瞬跳ねるが、シルバはそれに気付いていないのか、無視しているのか、気にした様子もない。
そればかりかその手は涙の後を辿り、拭うように優しく撫でられる。
何が起こっているの…?
脳内は軽くパニックになっていた。
人に剣を向けるのも躊躇わない人間がこんなにも優しく頬を包んでいる。
毎日剣を振るっているのであろうことが分かるような、ゴツゴツとした手の平。
けれど、意外にもその手は温かくて、思わず擦り寄ってしまいそうで…
この手を知っている気がする……
優しく包まれるものだからシルバの人柄を忘れそうだった。
この人は私を脅してここまで連れてきた人。
私が逃げれば躊躇いなくジェスを殺そうとする怖い人なのよ…
そう自分に言い聞かせるが、次のシルバの言葉にその戸惑いは更に大きいものになる。