白銀の女神 紅の王
「あっという間に行ってしまわれましたね」
三人が出て行った後、ニーナの残念そうな声が静かになった後宮に響く。
「皆忙しいのよ」
「でもこんなにエレナ様が苦しんでらっしゃったのに…」
心優しいニーナにふふっと微笑む。
「心配してくれてありがとうニーナ。私はそれだけで十分よ」
「エレナ様~~~」
小動物の様にウルウルと琥珀色の瞳を潤ませて、私の名を呼ぶニーナに可笑しくて笑う。
「もう少し休ませて。早く体力を取り戻さなきゃ」
まだ身体が鉛のように重たく、睡眠を欲している。
「分かりました。では私はエレナ様の安眠の為、少し席を外しますね」
ニーナはそう言って侍女たちと共に部屋を出た。
広い後宮に一人になる。
嵐が過ぎた後の様な静けさに少し寂しいと思うのは人に慣れてきたせい?
今まで私の世界にはジェスしかいなかったから…
大切な人が増えるのは嬉しいけれど、失った時の怖さも知っているから踏み出せない。