白銀の女神 紅の王
「え……うさぎ………。」
草陰から出てきたのは、野生の野兎だった。
見たところ、子供の野兎のようだ。
「あなたも一人なの……?」
心細さから、その兎に近寄り、話しかける。
野兎なのに、逃げなかったのは子兎だからだろうか。
人差し指を差し出せば、興味を持って鼻を寄せてくる。
「ふふっ……あなた、お母さんとお父さんは?」
答えてくれるはずもないのに、声をかける。
柔らかな毛並みの感触を愉しんでいると、子兎が耳をピンッと伸ばし、何かに反応する。
「ん?どうしたの?……あっ……。」
安心させるように撫でるが、子兎は逃げて行った。
子兎が森へ帰って行ったことを少し寂しく思っていたのもつかの間―――
「ッ………!」
目の前の自分の影に、大きく重なるもう一つの影。
振り返ろうとした瞬間―――
「んんッ……!」
後ろから羽交い絞めにされ、布の様なもので鼻と口を覆われる。
途端、グラリと視界が揺らぐ。
「ぁ…なた…は………。」
視界に入った人物を捉えた所で、意識は途絶えた―――