白銀の女神 紅の王
4章 エレナ奪還
怒りの矛先
日も沈んだ夕刻―――
薄暗い背景に溶け込む様な黒いマントを羽織り、馬を走らせる一行。
ちょうど、イースト地区の暴動の収拾と国境付近の視察を終えて、王城に帰るとこだった。
しかし―――
「デューク、何故お前までついてくる。」
後ろからついてきているであろう側近に、苛立たし気に問う。
「何故って、エレナに会いたいからだ。」
「自分の仕事をしろ!」
サラリと言ってのけるデュークに、思わず声を荒げる。
「まぁまぁ、シルバ。国境付近に異常はなかったようですし。」
間に入って来たウィルが、デュークとの仲を取り持つ。
「ウィルの言う通りだ。」
確かに、国境付近を視察した際には、ギルティスの兵が入って来た形跡もなかった。
しかし、不純な動機で王城に向かおうとするデュークに苛立ちが募る。
エレナに会いたいだと?
ふと、城下から帰って来た時の二人を思い出す―――
挑発的な視線をよこすデュークと、自分の前では見せない笑みを浮かべるエレナ。
チッ……
残像の様に、頭の片隅にある記憶が忘れられず、苛立つ。
それは、デュークとエレナに対してか。
その苛立ちの理由が分からない自分に対してか……