白銀の女神 紅の王
「ッ……あな…た……。」
目の前に立つ男を見上げ、掠れた声で呟く。
やっぱり……
「もう一度、お前を攫いに行くと言っただろ?」
不敵に笑った男は、以前、私を後宮から無理やり攫おうとした男だった…
意識を失う前に見た人物は、やはり、あの男だったのね。
薬のせいか、頭痛と眩暈に襲われながら、必死で男を睨む。
「そんなに睨まれても、お前をあの王城へ返す気はないぞ。」
男が、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。
「女が目覚めたのか?」
そう言って寄って来たのは、テーブルを囲んでいた者達。
「コイツ、本当にエレナ・マルベルか?」
「ッ………。」
この人たちも私を……?
耳に入った自分の名に、動揺を隠せない。
「証拠を見せてやる。」
ガバッ――――
そう言って、男が羽織っていたマントを引き剥がす。
途端、マントから零れ落ちる銀色の髪に、周囲から驚きの声が零れる。
そして、男が私の顎を掴み、上へ向かせれば……
「銀色の髪と銀色の瞳……と言う事は、本物か。」
髪の毛と瞳の色だけで、素性が分かってしまう自分を、こんなにも恨めしく思ったのは久しぶりだ。