白銀の女神 紅の王
心の中で悪態をつきながら、馬を降りる。
「シルバ………?」
訝しげな声を上げるエレナ。
「来い。手当てをする。」
馬上のエレナに手を伸ばし、降りてくるよう促す。
…しかし、エレナは動こうとしなかった。
「こ、これくらい大丈夫よ。それより、先を急ぎましょう?」
胸の前にグッと手を引き、降りないと言う意思を見せるエレナ。
追っ手が来る事を恐れているのだろうが…
何が大丈夫だ………
追っ手の心配よりも、自分の体の心配をしろと言うのだ。
「傷が化膿すると、熱が上がる。そうすれば、移動するのも難しくなる。」
傷は深くないものの、時間が経っている。
このまま放っておけば、確実に悪化してしまうだろう。
既に熱が出て、辛そうにしていると言うのに、このまま馬で移動するのはエレナの体に負担がかかりすぎる。
「け、けど……「エレナ。」
渋るエレナの名を呼び、有無を言わせない視線を送る。
「来るんだ。」
それが決定的な言葉となり、エレナがおずおずと手を差し出す。
それさえも、もどかしく感じ、ゆっくりと伸びてくるエレナの手を自分から取りに行く。
グイッ――――
「きゃっ……!」
小さく悲鳴を上げるエレナを、しっかりと受け止め、横抱きにしたまま道の脇へ入っていく。
何故か小さく、ごめんなさい……と呟くエレナを抱きながら――――