白銀の女神 紅の王
蘇る過去
『シルバッ!』
ぶつかり合う剣の音と、人々の声が入り混じる喧騒の中―――
それは、真っ直ぐ俺に届いた……
俺とエレナだけの静かな泉に、不穏がもたらされたのは、まだ日も昇ったばかりの朝だった―――
エレナの傷の手当てをしていた時。
逃げるためとはいえ、自分の腕を切りつけたエレナに苛立ちを覚え。
涙を流す姿に、その苛立ちはスッと消え去り。
代わりに胸を支配したのは、どうしようもない程のもどかしさ。
“泣いて欲しくない”
ただ、そう思って抱きしめた。
らしくない考えに、らしくない行動。
その時は、全てがおかしかった。
だからだ……
不覚にも、忍び寄る音に気付かないまま、奴らの接近を許してしまったのは……
内心の苛立ちが悪態となって出て来て、その音がした森の中に向かって叫べば…
森の中から出てきたのは、黒ずくめの男たち。
次いで出てきたのは、今や、国家の逆賊になり下がった者だった。
表の顔は、伯爵家の貴族。
そして、裏の顔は国家の反逆者、闇の組織ブレイムの創始者……
フォレストだった。