白銀の女神 紅の王
「……大丈夫だ。そこでじっとしていろ。すぐ行く。」
振り向きざまに、剣を振るいながら応えれば、ほっと安堵した様な表情をするエレナ。
手の甲で、グッ…と血を拭う。
長期戦は避けなければならない。
そろそろデュークが追いついてもいい頃だが、正確な時間は分からない。
それに……
チラリとエレナの方を見れば、マントの端を切って巻いただけの、痛々しい腕が目に入る。
早く医師に見せなければならない。
あれは応急処置をしただけで、まだ完治しているわけではない。
現に、今も熱で頬が赤い。
夜通し歩き続けて、疲労も溜まっているエレナに、この状況は酷すぎる。
このまま長期戦になれば、エレナの体力がもたないことは容易に想像できた。
キーンッ――――
コイツらをさっさと片付けるのが先決だな……
振り下ろされる剣を薙ぎ払いながら、次の相手に向かおうとしたその時―――
「エレナッ……止めろッ!」
耳障りな声が、突如として耳に入る。