白銀の女神 紅の王
またか……
大人しくしていろと言うのに……
そう思いながらも、一方では胸のざわめきが治まらなかった。
「シルバッ!」
悲痛に叫ぶ、悲鳴にも似た声。
そう………
これは、あの夜の様な―――
後宮に男が侵入し、エレナが拘束されていた時と、同じような呼び声。
いつもは俺の名を呼ぶことすらしない癖に。
その時は、俺の名を呼び…
危険も顧みずに、男の拘束から逃れたのだ。
首の傷を代償にして……
自分の痛みにはまるで気を使わないエレナ。
ジェスの元から逃げ出す為、また、無茶をしているのではないか……
あの時感じた苛立ちを思いだし、咄嗟にエレナの方を振り返った瞬間―――
一瞬視界に入った光景に息を飲む――
辺り一面に響き渡った声に、引かれる様に視線を奪われる者たち。
朝日に照らされた銀色の髪が舞うその光景を“綺麗”だと思った。
刹那――――
その小さな体が飛び込んできた。
ふわり、と…
まるで覆いかぶさる様に……