白銀の女神 紅の王



しかし、そんな時間は与えられるはずもなかった。




「今だ!奴を殺れッ!」

嬉々とした声が、静寂を破る。

その声に、我に返ったように剣を構え直す部下たち。




「けれど、父上…エレナ様が……。」

血相を変えて駆け寄って来たロメオ。

森の中から部下を引き連れて出てきた所を見ると、矢を放ったのはコイツらだろう。




「アレは捨て置け。もっと良い女を用意してやる。」



煩い………



「私はエレナ様でなければならないのです!」



黙れ………



耳障りな口論を聞きつつ、ゆっくりと、エレナを地面に横たえる。

冷たくなってゆく体に、着ていたマントを巻き付けせ、スッ…と立ち上がれば…





「う、動くなッ!」

近からず遠からず、剣を構えてこちらに向いていた部下たちが一歩引きながら、そう叫ぶ。

そこには、エレナに矢を放ったであろう奴もいて……




「覚悟は出来ているんだろうな……。」


唸る様に出た言葉は、恐ろしく低く響いた。

周囲から、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。



「そ、それはこちらの台詞ですぞ、シルバ様。」


先程まで、余裕を見せていたフォレストも、心なしか焦っていた。






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