白銀の女神 紅の王



そして、エレナはと言うと……



バサッ――――

時計の針がてっぺんを指したのを確認して、今まで見ていた書類を、机に置く。

立ち上がり、執務室を出て向かったのは、今や帰る場所となった所。



キィー……――――

そっと扉を開けば、シンと静まり返っている後宮。

その中でも一際目を引くベッドに、エレナは横たわっていた。

何の変化もないその光景に、眉を寄せながらも、エレナの眠るベッドへ近付く。



ギシッ――――

大きくベッドが軋み、揺れるも、エレナは固く目を閉じたまま。

エレナは、一週間経った今も、未だ目を覚ましていない。




医師によれば、生きているだけでも奇跡だという。

ロメオがあの矢に仕込んだ毒は、やはり強力だったようで…

体内に入れば、数分と経たず死に至る様な猛毒だったらしい。

けれど、それでもエレナが命を取り留めたのは、解毒薬があったからこそ。



あれがなければ、今エレナはこの世にはいない……

それを思うと、ぞっとする。




そして、意外にもエレナの命を繋ぎ止めていたのが睡眠薬だった。

医師によると、睡眠薬が、毒の進行を遅らせていたらしい。

腕の傷の化膿による熱も下がり、背中の傷も改めて手当てをした。

すぐに血色も良くなり、回復の兆しを見せたのだが……


エレナは未だ、眠りから覚めない。



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