白銀の女神 紅の王
最後にあったジェスの記憶は、私の名を叫んでいるもの。
『エレナッ!』
あの時、少し焦っている様な声に聞こえたのは気のせいだろうか。
ううん…私に逃げられたのだから焦るのは当然のこと。
けれど、その中に、ジェスの優しさも垣間見えて…
ジェスと二人、酒場の地下室ですごした時の事を思いだした。
何度も打ち消されてきた考えだけど…
また、昔の様な関係に戻れるんじゃないかって……
けれど、ジェスもまた、捕まってしまった。
こうなれば、いよいよ私にはどうする事も出来ない。
きっと、ジェスも処分されるのよね……
そう思うと、気持ちが急降下する。
「もう寝ろ。」
黙っていたのに、まだ眠っていない事を察したのか、シルバがそう言う。
「はい…おやすみなさい…」
「あぁ。」
シルバのそっけない“おやすみ”を聞いて、目を閉じる。
すぅ…と肺いっぱいに入って来る、シルバの匂い。
8日間も寝て、もう眠れないと思っていたのに、不思議とすぐに眠れた。
私が寝たのを見届けてから、ほっと息をつくように眠りについた眼差しがあった事を知らずに―――