白銀の女神 紅の王
「昨日からずっとそれですよ?一体どうしたんです、貴方らしくない」
「何でもない」
冷静を装う様に書類に目を戻し、苛立たしげに答える。
“貴方らしくない”?
そんなこと自分が一番分かっている。
そしてその原因も…
けれどそれを認める程素直な心を持ち合わせていないし、認めたくない。
「何でもないはずありません」
そう言ってウィルがソファーから立ち上がり、机に近づく。
そして机に手をつき、静かに口を開く。
「エレナさんですか?」
「違う…ッ!」
低く荒々しい声で否定する。
弾かれたように顔を上げ、紅の瞳がウィルを睨んだ。
この国で自分に食ってかかろうと言う者は誰一人いないだろう。
しかし、ウィルも伊達に長い付き合いをしてきたわけではない。