天使と悪魔~2つの顔を持つ男~
「昨日の事、誰にも言ってねぇよな?」
やっぱり!と心の中で呟く。
心の準備をしただけあって、まだ自分の中でほんの少しだけ余裕があった。
「言ってないです」
「――だったら話が早い」
緒方はそう言って千里に近寄ると細い顎を指で掴み、グイッと上へ上げた。
「あれは俺とお前だけの秘密事だ。絶対誰にも話すんじゃねぇ、わかったな?」
冷たい目で見下ろす緒方の視線に、
千里は顔を強張らせながら頷く事しか出来ない。
「昨日の女はもう捨てた。だから今日からお前が俺の女になれ」
片眉を上げ不敵な笑みを浮かべて話す緒方。
思ってもみなった展開に千里は目を大きく見開き驚いた。
「女って……!」
「見てたんだろ?ヤッてた時。それと同じ事をするんだよ」
平然と話すその口調は生徒と肉体関係を持つという教師あるまじき行動に、
全く悪びれた様子すら伺えない。
「お前、俺の事好きだろ?いつも痛いぐらい視線感じてた」
その言葉を聞いて、
千里は恥ずかしくなり耳まで赤く染めてしまった。
「……黙って俺に抱かれていればいいんだ」
緒方はそう言って千里のファーストキスを軽々と奪った。
それは夏の濃い初体験だった。