天使と悪魔~2つの顔を持つ男~
「すみません…」
「いいから早く乗れ。学校の人間に見られる」
緒方は助手席の鍵を開けると、
千里は申し訳なさそうに車へ乗り込んだ。
「ベルトを締めろ」
明らかにその声は怒り心頭に聞こえてくる。
自分が犯した失態にガックリ反省しながら千里はシートベルトを締めた。
そしておもむろに車は動き出し、
要約街中に向かって走り出したのだった。
「……」
「……」
無言の2人。
気まずい雰囲気が車内を包み込む。
――あぁ…、どうしよう……。
自分が何かを話したらその100倍の攻撃で返されそうだ。
だが、せっかくの2人きりなのに、
このまま無言で買い物が終わるのはもっと辛い。
「目の下、クマ出来てるぞ」
その時緒方がハンドルを握りながら言った。
「えっ!」
「嘘」
千里は顔を赤くしてサイドミラーを慌てて見た途端、
隣からボソリ聞こえてきた。
道路の信号が赤になりゆっくりと減速する車。
「……」
軽くからかわれた千里が隣に座る緒方の顔を恥ずかしそうに眺める。
サングラスをかけたその横顔は実に愉快そうに口端を上げて笑っている。
「からかわないで下さいよ、昨日全然眠れなかったんですから」
千里が頬を膨らませて呟いた。