天使と悪魔~2つの顔を持つ男~
「何突っ立ってんだよ。迷子になりてぇのか、てめぇは」
「先生がスタスタ行っちゃうからじゃないですか!」
「お前がチンタラ歩いてくるからだろうが。もっとぱっぱと動け」
「先生酷いじゃないですか!自分から誘っておいて!」
入口付近で喧嘩腰のように言い合う男女に周りの視線が痛いほど捧げられる。
周囲の空気にやっと気づいた2人は要約言い合いをやめた。
「……わかったよ。ゆっくり歩けばいいんだろ」
「生意気にすみませんでした」
ハァ~と深いため息をついて髪をかきあげる緒方に、
千里は自分の行き過ぎた言動を反省した。
「あとさ、ここで先生とか言うの止めね?周りから変な目で見られるし」
入口にはどんどんたくさんの人間が行き交い、
それは老若男女で構成も様々だ。
「じゃ何て言えばいいんですか?」
千里が申し訳なさそうに上目使いで緒方を見上げると、
緒方は驚いた表情を一瞬してパッと千里に背を向けた。
数秒黙り込み千里がその広い背中を眺める時、緒方はポツリと呟く。
「……玲でいいから」
そう言った瞬間、千里は緒方のあるまじき光景を目撃してしまった。
――先生、耳真っ赤……。
緒方は赤くなった顔を隠すために千里へ背を向けたのだった。