天使と悪魔~2つの顔を持つ男~
「御馳走でした」
空になった白い皿の上にフォークを置いた千里。
「玲さんって意外と料理上手なんですね」
「意外は余計だ」
テーブルを挟んで向かい合わせに座る2人。
談笑しながら食卓を囲む。
「あの緒方先生が料理上手だってみんな知ったら、もっと人気になっちゃいますね」
思わずフフフとにやけ笑いする千里。
その料理を食べた人間は自分だけとつい優越感に浸ってしまう。
「絶対に言うなよ?お前にしか作った事ねぇんだから」
「はーい」
フンと恥ずかしそうに強がる緒方に、
千里は満面の笑みで返事を返した。
「さてと、片付けするかな」
「――あっ、私やります。玲さんは座ってゆっくりしてて下さい」
イスから立ち上がろうとした緒方を止め、
千里は自ら立ち上がり食器を片付け始める。
そして集めた食器を持ちキッチンで洗い出した。
「……」
その後ろ姿を緒方は煙草を吸いながらジッと見つめている。
カチャカチャと音を立てながら嬉しそうに洗う千里。
まるで恋人になったような感覚に1人酔いしれていた。
その時、背後から人の気配が感じられたと思った瞬間――。