天使と悪魔~2つの顔を持つ男~
「おはようございまぁ~す、緒方先生~」
朝から甘ったるい声を出す女子生徒の先には、
「おはようございます」
ニッコリ笑う天使の微笑みを浮かべる緒方の姿。
「先生~」
黄色い声で近寄ってくるのも女子生徒。
朝から廊下で生徒に絡まれる緒方を遠くから見つめるのは、千里だ。
「今日も朝から大変だなぁ……」
あくまでも人事のように呟く千里の内心は、何故か勝ち誇っていた。
まさか緒方の自宅に招かれ、
2人きりで過ごした事など誰も知るはずがない。
自分は特別だと本人から言ってくれた事も。
だからこそ緒方にたくさんの女子がたがっても、
余裕を持って眺める事が出来るのだ。
「!」
その時、緒方と目があった千里。
「おはようございます、桜井さん」
群がる女子を掻き分け、
眼鏡の奥で目を細めながら千里にちかよる緒方。
「おっおはようございます」
思わず吃ってしまった千里は頬を赤くしながら、
足速にその場を去って行く。
2人の間に流れる空気に周りは首を傾げつつも、緒方から離れる事はない。
だがそんな光景を冷たい目で眺める1人の女子生徒。
それは千里と緒方を睨むほどの鋭い視線だった。