天使と悪魔~2つの顔を持つ男~
学校から程近いこの道は、
たくさんの生徒が下校している。
「……」
もちろん今だって……!
「行くぞ」
ガッと手首を掴み、強引に引っ張る悪魔。
周りもその行動に目を丸くしている。
ア然とした千里は足がもつれながらも何とかついていき、
無理矢理後部座席へ座らせられた。
そして運転席に乗り込んだ緒方は無言のままエンジンをふかし、
急発進で車を走らせ風のように去っていった。
「あの女に何て言われた」
2度目の自宅。
なのに何故こんなに心が騒ぐのだろう。
「別に……」
「嘘つくな」
リビングに立ち尽くす千里の顔を、
緒方は両手で包み込み自分の方へ向けた。
「何か吹き込まれたから来なかったんだろ?正直に話せよ」
ジッと見つめられ、騒ぐ心が少しずつ晴れていく。
だが脳裏に浮かぶ言葉が千里を窮地に追いやってしまう。
「……私は…、先生にとって特別な存在ですか…?」
口が開いたのを皮切りに目に涙が溜まる。
「それとも…っ、ただの道具ですかっ…?」
目線を落とし、瞬きする度にポロポロと涙が頬に落ちた。
緒方はその様子をしっかりと見届けている。