天使と悪魔~2つの顔を持つ男~
緒方玲。
担当課目は数学。
わかりやすい穏やかな話し方とどの生徒にも優しい立ち振る舞いは、
多くの人間に慕われていた。
女子からは黄色い声を浴び、
男子からは同性として日々悩み事を相談される。
進路や勉強はもちろん私生活の悩みなど様々だ。
緒方はそんな生徒達に嫌な顔せず、全て敬語で対応していた。
―――ただ1人除いては。
その日の夜。
外は台風が接近しているせいか大荒れだった。
千里はその激しい雨音を自分の部屋で聞きながら、
学校から出された課題に手をつけていた。
今の進学高に入れたのは両親だった。
元々教育に厳しい親は千里を幼稚園から塾に行かせ、
様々な英才教育を受けさせてきた。
だが当の本人はそれが嫌だった。
自由な時間が全くない。
学校以外の時間は全て勉強時間や英才教育に回される。
逆を返せばそれだけ自分に期待をしているのかもしれないが、
千里自身はそれが重荷になりプレッシャーに変わってきていた。
立派な大学に進学し、立派な人間になりなさい。
毎日親から口酸っぱく言われ、
自分は結局親が引いたレールの上を歩かないといけないのかと毎日疑問に感じてしまう。