天使と悪魔~2つの顔を持つ男~
その瞬間、2人の男女が物音の矛先を見つめた。
「あっ……」
あまりにも突然の事にパニック状態になる千里。
女は同じ制服を着た生徒だった。
自分がしている事に罪悪感を感じたのか、
女子生徒は慌てて緒方から離れると急いで教室を去っていってしまった。
「……」
扉が全開に開いたまま千里は目の前の緒方を凝視してしまう。
見慣れた姿ではない、
全くと言っていいほど別人。
眼鏡もかけていなければ、整った髪型でもない。
「……いいトコだったのに」
口元を緩ませて笑いながらも口調も荒く、
ますます普段の緒方と掛け離れた姿。
だが声は間違いなくあの思い人。
緒方は着衣を直すと近くにあった椅子に座り煙草を吸い出した。
「閉めろよ、煙でバレるだろうが」
そう促され、千里は慌てて教室の扉を閉めた。
――あれが緒方先生?
嘘だ…でも……!
頭の中でどんなに整理してもうまくまとまらない。
いつも見ている天使の微笑みではなく、
あの荒れた姿はまるで悪魔の化身の様。
どちらが偽りでどちらが真なのか……。
複雑に絡む思いを抱えたまま、
千里はその場から離れていった。