蔓薔薇
私は、彼の鼓動を聞きながら
存在する事の喜びを知り
儚く消えた命を思い出すと
涙が止まらない。

彼は私を心配そうに見つめ
その涙の意味を問うことはせず
に、流れる涙を右手で優しく
拭ってくれた。
  
「少し、痩せたね・・・」

彼に、あの出来事を話す勇気が
もてない私は、ただ心の中で
何度も、何度も繰り返し
謝るしかなかった。

『イサ、ごめんね・・・』

私はイサに手を引かれ、室内に
入り、食卓の椅子に座る。

引っ越すというのに、部屋は
私が出て行った時のまま
きれいに片付いている。
 
とても住居を変わる為に、荷物
をまとめているようには
みえない。

「イサ・・・
 ここを引っ越すって本当?
   
 さっき、母から聞いて
 私、居ても立っても
 いられなくて、気がついたら
 ここへ向かってた」
< 331 / 361 >

この作品をシェア

pagetop