夢でもいい
「いらっしゃい!」
玄関のドアを開けながら、翔太の母親がふたりを迎えた。

「は、はじめまして!宮元みちるです。翔太くんとは、あの、お付き合いさせて頂いております!」

玄関で、初心演説のようなみちるの自己紹介を聞いた翔太と母親は、顔を合わせて吹き出した。

「ふふ、翔太!あなたの新しい彼女、いい子ね!礼儀が正しいわぁ。
翔太の彼女ときたら、みーんなミニスカートにひじきみたいなマツゲでしょ~?
なにかご馳走しても、ごちそうさまもないのよ?!まったく、信じられないでしょ…ちょっと?翔太!」

母親の咲子は、話し出したらとまらない。
咲子の話しの途中で、翔太はみちるの腕をつかみ、2階の部屋に向かった。

「母さん、パートの時間に遅れるよ?ほら、こんな時間。」
「えっ?大変!翔太、ケーキはオーブンに入ったままだから、みちるちゃんにご馳走してね!じゃあね、みちるちゃん!ゆっくりしていってね~」

上着に腕を通しながら、咲子は慌ただしく出かけて行った。

「素敵なお母さんだね。」
翔太は部屋のドアを開けながら、くるっと振り向いた。

「母さんをそんな風に話してくれたのは、みちるだけだな。」

「えっ?そうなの?」

「だから、母さんもみちるが気に入ったのかな。はい、入って。結構きれいにしてるだろ?」

翔太の部屋は6畳ほどで、テレビとベッドに机など、必要最低限の物だけが置かれていた。
壁には、翔太が尊敬するイチローのポスターが貼られていた。

「本当…。もっとゴチャゴチャしてるて思ってた。」
「マジ?正直に言われるとなんか悲しいね…。」

翔太は苦笑いをしながら、エアコンの電源を入れた。

12月に入ると部屋の中にいても、吐く息が白くなる。

「ごめん、寒いでしょ?ちょっと待ってて。何か飲み物持ってくるから。」

みちるは座る場所に迷い、部屋のすみに座り、部屋をぐるりと見渡した。

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