夢でもいい
「ウワサになってる。翔太とわたしが付き合い始めたって。彼女たちに関係ないのに。」
みちるは音楽室から視線を落としながら、苛立ちを抑えながら言った。
「う~ん、吹奏楽部って男子少ないじゃん。だからさ、カップルに敏感なんじゃない?特に、俺らお似合いだかねぇ。」
翔太はまたニヤリとしてみせた。
「そんなの…」
言いかけながら、みちるの頬が赤く染まった。みちるは色白なので、顔色の変化がすぐバレてしまう。
翔太の見せる、この不敵な笑いをみちるは好きなのだが、なぜだか恥ずかしくなり真っすぐと見れない。
いつも恥ずかしくなり、顔を背けてしまう。
「えっ、なに恥ずかしがってるの?…本当にみちるは可愛いいね。」
翔太の手がみちるの頬に触れた。すると、みちるの顔がみるみる赤くなっていった。
「やめてよ!」
みちるは翔太の手を払いのけた。
翔太は一瞬呆気にとられたが、気を取り直したかのように、
「はいはい。今度はみちるに触れる時は、事前に許可を取りまーす」
と言い、すかさずみちるの手を握り、
「手つなぐのは、事前の許可は必要なのでしょうか、お姫様?」
と、まるで自分が王子であるかの様に聞いた。
「手は許しましょう」
と、みちるもふざけて答えふたりは笑った。

みちるは意地っ張りな自分が嫌いだ。
だが翔太はそれをものともせず、みちるのそばに難無く近づいてみせる。


「あれじゃあ、みちる、彼氏できないよね」
「そうそう、草食男子は傷つきやすく、立ち直りにくいからね。恥ずかしがってても、怒ってる様にしか見えないもんね。」

ともだちが話してるのを偶然聞いてしまった。
分かっているつもりだったが、ともだちもそう思っているのだと知ってショックだった。
みちるは、男性恐怖症なんてものではないが、気になる男子の前では緊張してしまい照れ隠しで、口調がとげとげしくなってしまうのだ。
それは、高校生になった今でも治らず、まわりに彼氏ができ、色々な経験談を聞き、かなりあせっていた。
「よかった、手もつなげないカップルなんてさ、今どきいないもんね。」
翔太は、みちるの手を自分のコートのポケットに入れた。
みちるの手が寒さで爪の先まで白くなっているのを見たからなのだが、みちるはこんなさりげない翔太の優しさが好きだ。

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