夢でもいい
なぜおしゃべりな加奈子が自分から話してこなかったのか、みちるは不思議に思った。
純粋な疑問だった。
加奈子は横目でちらりと七海を見た。
それを見て、全てをみちるは理解した。

―加奈子はわたしに遠慮したのだ―

みちるは感が鋭いところがある。
七海に向けた、加奈子の視線。助けを求めて、すがるような目だ。
「加奈子はわたしに気をつかってくれたんだよね。」
みちるは、少し早口で少しおどけた感じに言った。
「みちるぅ~」
加奈子が困ったように、みちるの顔色をうかがった。機嫌をなおしてよ!と言っているような口調だ。
「ほら、まだみちるは彼氏いなかったしあせらせてもと思ってさ。」
加奈子のかわりに、七海がみちるに弁解するように話した。
「あせるなんて…」
みちるはそれ以上なにも言えなかった。

女の感は、男の浮気を発見するだけに力を発揮するんじゃない。
女同士でも無意識に発揮されるのだ。
女は気遣いが上手いが、それが良い効果を時もあるし、逆もある。
今回の場合は、完全に後者だ。

みちるは一生懸命に考えた。

―ふたりに気を使わせちゃダメ―

みちるは、出来るだけ声のトーンを一定に保ちながら話しはじめた。
「うん、聞いてたら確かにあせってしまったかも。わたし、まわりを気にしてばっかりだしね。」
七海と加奈子は、ホッとしたような顔をした。

「さっそくだけど、体験談聞いちゃおうかな!わたしの初体験に役立たせてもらいます☆」
みちるが言うと、加奈子の目がキラキラと輝きはじめた。

―よかった―

落ち込んだ雰囲気が明るくなり、みちるはホッとした。
みちるは、素直な加奈子が好きだ。
素直すぎるので、言葉を発したあとで弁解しなきゃならないことが多々あるが、それも加奈子の愛嬌だ。

加奈子の話しに相槌をうちながら、七海と加奈子がともだちで良かったと思った。
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