夢でもいい
「ポテトとコーラMサイズ2個、お待たせいたしました!」
カウンターのお姉さんからトレーを受け取ると、1番奥のテーブルに座った。
ここならゆっくり話せるし夕方のこの時間なら騒がしくて、自分達の話し声がまわりに聞かれることはない。
無言でポテトをつまみながら、最初に話しはじめたのはみちるだった。
「なにか話したいことがあるんでしょう?」
七海はみちるの目を見た。冷静な目。
不安な気持ちは現れていない。
七海が話すことを受け止める準備ができているようだ。
「うん。あのね、翔太のことなんだけど。翔太さ、練習来なくなっちゃったけど野球部じゃん。」
翔太は、去年の夏休みの練習中に肩を故障して以来、部活には出ていない。
まだ2年だった翔太だが、エースピッチャーを任されていた。
3年生のピッチャーもいたが、翔太の方が実力があった。
「翔太なら、俺らも最後に全国大会にいけるんじゃね?」
と、3年生も翔太を認めていた。
西高校野球部は、いつも県大会2回戦敗退の弱小校だったが、翔太の入部を機にみるみる良い成績を上げた。

弱小野球部に訪れた、全国大会出場への希望が、翔太の肩の故障によって泡と消えた。

部員全員がショックをうけたが、一番ショックをうけたのが翔太本人だった。

七海は、今年の3月まで野球部のマネージャーをしていたので、事の詳細を知っていた。
みちるも七海から話しを聞いていた。
「うん、知ってるけど…それがどうしたの?」
みちるが聞くと、七海は「う~ん」と小さいうなり声をあげてから話しはじめた。
「肩をケガしてすぐなんだ、南高校の子と付き合ったの。」
「そうだったんだ…。でも、それがどうしたの?」
みちるが聞くと、また七海は小さいうなり声をあげて話しはじめた。
「うん、長くなるんだけどいい?」
みちるは、うなずいた。
「あと、わたしはみちるより翔太との付き合いは長いから、翔太の性格はみちるより分かってるつもり。」
うん、うんとみちるはうなずいた。
「翔太は、みちるのこと本気で大切に思ってる。それを忘れずに、わたしのはなしを聞いて欲しい。」
みちるは少し不安になりながら、大きくうなずいた。
七海は、ゆっくりとはなし始めた。
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