夢でもいい
翔太は、呆気にとられたように一瞬だまりこんでしまったが、長いため息をついた後、美雪に聞いた。
「嫌だっていったら?」
美雪は、想定外の質問に固まってしまった。
「分かったよ、連絡すればいいんだろ!」と翔太が答えてくれると、信じて疑わなかったからだ。
「えっ…、嫌でも連絡くれるのは当たり前だよ!」
「俺にとっては当たり前じゃないんだけど?」

美雪は何も答えられず、黙ってしまった。

―ダメ、それ以上追い込んだら…―

七海が心の中で叫びながら、ヒヤヒヤした表情でふたりを見つめた。
しばらくの沈黙のあと翔太から切り出した。

「じゃあさ、別れようようよ。」
翔太の予想外の答えに、言葉を失ってしまった美雪は放心状態になってしまった。
翔太は、そんな美雪のことはおかまい無しに、彼女の腕をつかみ玄関の外に放り出した。
美雪は冷たい石畳の上にぺたんと座り込んだまま、翔太を見つめた。

事の成り行きを眺めていた七海は、はっと我に帰り、ふたりの間に割って入った。
「ちょ、ちょっと待ってよ!翔太、あんた何いってんの?!別れ話なら二人っきりの時にしてよ!」
翔太はきょとんとして言った。
「えっ、別れ話?もう終わったし、話すことないよ。美雪はもう帰るよ。じゃあね、バイバイ美雪。」
翔太の話し方があまりにさっぱりとしているので、七海も美雪も呆気にとられてしまった。
座り込んでいた美雪は、ハッとしたように立ち上がると、翔太に抱き着いた。瞳には涙を浮かべている。
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