氷の女王に誓約を
名前をコールされると、一気に緊張感が込み上げる。
悪い緊張感ではない。
心臓はドクドクと忙しないが、不思議と頭の中は冷静だ。
初めて披露するフリーの演技。初めて人前で滑るフリーの演技。
最終滑走とか順位とか五輪のこととか、そんなことよりも新しいプログラムを滑る楽しみの方が勝っている。
自分で決めたお気に入りの音楽。
気持ちを落ち着かせていると、客席の喧騒に混じって美優と朝飛の声が聞こえた気がした。
力強い覇気が籠った声に、どこか弱弱しくも精一杯出したであろう声。
二人だけじゃない。会場にいるお客さん全員が、俺に声援を送ってくれている。
大丈夫。全員味方だ。
リンクにはたった一人の人間しか立てない。
恐怖も不安も緊張も全て一人で抱えるしかない。個人競技の怖い所だ。