氷の女王に誓約を
自己管理不足という言葉で片付けることも出来る。だがそれは選手の実力云々とは言い難い。
あれが無かったらタクが勝っていたかもしれない。自分が負けていたかもしれない。
でもそれは所詮過程の話で、仮にあの事故が無かったとしてもこの順位が覆されるという確証はどこにもない。
頭ではわかっていても、それでも必要に考えてしまう。
「どの道お前は代表に選ばれた。それでいいじゃないか。俺からしたら羨ましい望みだ」
寧ろ追い詰められていたのは羽生の方だ。
自身は怪我を負い、ライバルは調子を上げてベストコンディションで挑んでくる。
なんとか三位に入り、他のポイントでリードしていたから代表に選ばれたが、タクが優勝していたら羽生が選ばれることはなかったのだ。
「俺とお前とじゃ立場が違うんだ。お前はまだ若い。ヘマをしでかしても次があるし、世間もソチへのステップアップだと思っている」
羽生は言う。
「だけど俺は違う。年齢的にもソチは厳しいし、タクを差し置いて代表に選ばれた以上、この五輪で結果を出さなければならない。お前みたいに勝負の内容をグチグチ悩んでいる暇はないんだよ」