氷の女王に誓約を
羽生がキレている姿を大介は何度か見ている。
見ているが、今回は違った。
キレているというより、切羽詰まったような焦りが前面で出ているようだった。
大介以上に、羽生が今回の結果を悩んでいる。
自分が本当に五輪に出ていいのか。本来はタクが出場するべきじゃないのか。
それでも五輪に出場出来ることは喜ばしいことだし、素直に嬉しいとも感じる。
だからこそ、結果を残さなければならないと自分を追い詰めていた。
羽生は立ち上がり出口に向かう。
と、ドアを少し開けた所で立ち止まり、顔だけを大介に向けた。
「俺とお前は同じ日本代表だが、決して仲間なんかじゃない。お前に不慮の事故が起こったとしても、俺は手を貸すつもりは毛頭ないし、問答無用でお前を見捨てる。
俺は全力でお前を蹴落す。あくまで合法的にな。だからお前も、俺を蹴落すつもりで戦え」
じゃあな。と最後に付け加え、羽生は退室した。
残された大介は、強い覚悟を前に唇を噛みしめることしか出来なかった―――