氷の女王に誓約を
俺の情けない呟きに反論したのは、先ほどまでクラシック至上主義を語っていた大塚さんだった。
「“風たちとの出逢い”はタッくんに凄く合ってるから変えない方がいい。それだけは言える」
ノートを閉じて真っ直ぐ俺に視線を向ける。
あまりに真っ直ぐ見詰めてくるから、まるで金縛りに合ったみたいに俺の身体は硬直した。
大塚さんは言う。
「疾走感の中に爽やかさがあって、だけどタンゴ風のアレンジで情熱的な面もある。この曲ってまさにタッくんそのものだと思うんだ」
「俺……ですか?」
「そう。滑らかなスケーティングに、優しくてだけどどこか熱血漢な性格のタッくんにピッタリじゃないか」
それは果たしてピッタリというのだろうか?
一応褒められているみたいだから良しとしよう。うん、そうしよう。
「まあつまり、俺が言いたいのは自分の直感を信じろってことさ。この曲で滑りたいって思ったんなら、それが正解なんじゃないかな」