幸せタクシー
医者:「ええ、特に問題がなければ大丈夫です。…右足首は靭帯を損傷していますので、しばらく安静にして下さい。少し歩行が困難ですが学校には通えるでしょう。」
…右足首?
そう、お母さんにお医者さんが話しているのを聞いて、改めて自分の右足首にギプスが嵌められていることに気付く。
お母さん:「そうですか…。」
少し俯いてお母さんは返事をする。
お母さん:「あ、私、戻らなきゃ!聡美、私仕事中に抜け出して来たのよ。今からまた仕事場に戻るから、帰りはタクシーに乗って帰りなさい。まぁ、無事で何よりだわ。」
そう言って私にタクシー代を渡すと、お母さんはお医者さんの方を向いて、
「すいません、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」
と言って病室を駆け足に出て行った。
ズキンと頭に痛みがはしる。
ザアザア鳴り響く雨の音が薄れていた記憶を取り戻そうとする。
医者:「大丈夫ですか?」
スッと白衣の男性が目の前に現れ、私の様子を伺う。
眼鏡をかけた50代くらいの医師は、私と目線を合わせジッと見つめた。