偽りの結婚(番外編)
次の日の朝――――
昨日の雨が嘘のように晴れ、太陽は溢れんばかりの光で大地を照らしていた。
雨の後の独特な草木の匂いと、白亜の王宮を囲っている花の香りが風に乗って流れてくる。
こんなに清々しい朝なのに……
コクンッ…コクンッ―――
「シェイリーン。」
組んでいた腕が揺れ、ラルフの呼び声にハッ…と我に返る。
いけないっ……!
うとうとしていた意識が一気に覚醒する。
「ご、ごめんなさい。」
ここは、一昨日の夜、歓迎パーティーが開かれたホールのど真ん中。
周りには、各国から招かれた招待客の人々。
今日は、その招待客が帰る日なので、今から、ウィリアム王子からの挨拶があるのだ。
こんな時にうたた寝など、国を代表してきている私達が出来ようはずもない。
「帰ったらゆっくり寝かせてあげるから、今は我慢するんだ。」
そう耳打ちするラルフに、一瞬呆れた視線で睨む。
寝かせてくれなかったのはラルフじゃない!
“止めてあげられない”という宣言を律儀に守ったラルフのせいで、こちらは睡眠不足なのだ。
昨日はいつもに増して執拗に責め立てられ、意識を飛ばすまで手離してくれなかったから、腕や足がとても痛い。