偽りの結婚(番外編)



「せっかくなので、皆が切望したブーケを手に入れた感想でも言ってもらおうか?」

意地悪な表情を浮かべてそう言うウィリアムは、完全に遊んでいる。

ラルフが、皆の前では紳士な態度を崩せないのを知っている上での事だろう。

私には、内心面倒だと思って溜息をついているラルフの心情が見えた。


それでも、ラルフは表面に笑顔を張り付け…




「とても素敵なブーケをいただけて光栄です。私としましては、迷路園に置き去りにした大切なものを取りに必死に走っただけなのですが、思いがけずブーケまでいただけて、嬉しく思います。」


そう言って、ラルフは微笑みながらこちらに視線を寄こす。


ドキッ―――――

心臓が大きく跳ねた。



もしかして……ラルフが言っているのは私?



“大切なもの”“必死に走った”



そのワードだけ切り取って頭に入って来た瞬間―――

ボンッと湯気が出そうなほど真っ赤になる。


一人慌てる様子が、周囲にバレていないかと焦るが、その心配は無用だった。

皆の視線は、紳士スマイルではなく、蕩ける様な微笑みを浮かべるラルフに釘づけだったから…



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