偽りの結婚(番外編)
なんだか良い香り……
ふわふわとした感覚の中、不意に意識が覚醒する。
…と言っても、まだ完全に目覚めるまでには至らないのだが。
瞳を閉じた状態の中、香ってきた良い匂い。
その良い香りの元をつきとめたいと思いつつも、瞼が重くて叶わない。
体も言う事を聞かないし……
良い香りに導かれて、再び深い眠りに誘われそうになっていた時だった―――
「シェイリーン。」
頭の中に響く、低く甘いテノールの声。
そっと、肩に添えられる大きな手。
それが誰かなんて明白で…
「シェイリーン。」
今一度呼ばれた声に引き寄せられるように、ゆっくりと目を開けた―――
すると…
「おはよう。」
ふわりと微笑むラルフ。
「おはよう、ラルフ。」
部屋の中の光に、目を細めながら、ベッドサイドに座るラルフに声をかけた。
ラルフはちょうど窓側の方に座っていたので、逆光で、今まで暗闇に慣れていた目が細められる。