偽りの結婚(番外編)
そして、すぐ後ろに来たかと思えば、触れるだけの口づけが落とされる。
その瞬間――――――
ッ………!
フワリと香って来た匂いに息を飲んだ。
甘く鼻をくすぐる匂い。
頬に残る口づけの余韻に浸る暇もなく、ラルフは離れて行く。
そして、いつものようにベッドを離れて浴室へ向かった。
ガバッ…――――――
ラルフが出て行ったのを確認して、起き上がる。
「あれって……」
ドクンッ…ドクンッ……
心臓が嫌な音を立てる。
ラルフが頬に口づけた時に香って来た匂い。
それは薔薇の花の様な甘い匂いで…
「香水……?」
思い当たった考えが言葉になって零れる。
嘘よ……違う……
だって、ラルフは今日ウォール侯爵との会食だと言っていたもの。
香水の残り香がつく様な場所には行っていないわ。