偽りの結婚(番外編)



そうよ…きっと侯爵夫人の香水が移っただけ。

会食と言っても侯爵家が開く晩餐会。

きっと大規模な晩餐会で、色んな人が来ていたのよ。


その中には女性もいたはず。

けど残り香が強く移るくらいに近寄っていたということでもあって…

ブンブンッと頭を過った光景を振り払うように首を振る。




香水なんて貴族の女性ならほとんどの人がつけているし。

ラルフは招待された者として、女性とダンスを踊る事もある。

だからきっとダンスの時に移ったの。

そう自分に言い聞かせながら、再びベッドに横になる。




ズキンッ…ズキンッ……


胸の痛みに耐えながら、ラルフの帰りを待つ。

今は抱きしめて欲しい。

体を重ねなくていい……

ただあの広い胸に抱きしめられたい。

そうしたらこの不安も消えるから。




けれど、その夜――――

私はラルフの帰りを待たず、疲れ果てた様に眠ってしまった。



< 436 / 547 >

この作品をシェア

pagetop