偽りの結婚(番外編)
小さな命【完結】
ある昼下がりの王宮―――――
「シェイリーンッ!」
愛しい夫の切迫したような声が廊下に響いた。
後ろから聞こえた声にくるりと振り返ると、決死の形相で駆け寄る夫。
その理由が分かっているからこそ少し面白く。
こんな夫の姿はあまり見れないので、ついからかってみたくなる。
「なあに?ラルフ。」
「何じゃないだろ。また重いものを持って。」
惚けた様に夫の名を呼べば、案の定小さく叱られる。
駆け寄ってきたラルフは私が持っていたシーツの塊を取り上げた。
同じく新しいシーツを重ねた束を持っていた侍女たちはスッと下がる。
「全然重くないのに。」
「ダメだ。まだ安定期に入ったからと言って油断してはいけない。」
ぷくっと膨れた私にもピシャリと一刀両断するラルフ。
こんなやり取りは、私の妊娠が分かってからずっと続いていた。
妊娠初期などはラルフの過保護に磨きがかかっていて。
私もつわりで酷く体調を崩して寝込んだからとても心配してくれていた。
起き上がれずにベッドに伏せている時もずっと傍にいてくれて。
公務にも最低限のものしか出席しなかった。