ジキルハイド症候群



「あー、独り身って俺だけ?」


あーやだやだとため息をつく那祁に、あたしは笑う。


「他校にいるだろ」

「転校させようかな……」

「無理だろ」


ばっさり切り捨てられると那祁は、拗ねたようにパンを食べる。


「恵里」


目の前に差し出されたココアと珈琲に、あたしはココアを選んだ。
珈琲も捨てがたかったんだけど、蒼真は甘いのあまり好きじゃないし。
だのに、先にあたしに選ばせるなんて優しいよね。


「パンは?」

「蒼真が先に選んでいいわよ」


飲み物を選んだし。
そう言えば、そうかと蒼真は惣菜パンを選んだ。
惣菜パンが苦手なあたしを分かってくれているから惣菜パンを選んでくれる。
あたしは、菓子パンの方を受け取りながら、蒼真の優しさを全身で感じた。


穏やかで優しい時間。
皆がいて、楽しく過ごせる時間。
こんな時間がずっと続けばいいなと思った。


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