ジキルハイド症候群



「バッチを取ったのもあたしじゃないし?」

「やらせたくせに」

「だって、あたしが貸して?って言っても貸してくれないでしょ」


誰が貸すものですか。
絶対に貸さない。


「だから、頼んだだけ」

「何のために」

「内緒……まぁ明日には返すからさ」


返ってくるのは明日になるねー、と他人事のように話す茉里に、あたしは沸点を越えそうになるが、今ここで喚いても持っていないなら返ってこない。


今、あたしがこの部屋にいる理由はない。


あたしは、振り上げた手を下ろすと、茉里に背中を向けて自分の鞄を掴む。


「明日……返さなかったら許さないから」


そう言い捨ててあたしは、茉里の部屋を出る。


「…………あんたのそういうとこ、大嫌い」


小さく茉里が呟いた声は、聞こえなかった。


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