ジキルハイド症候群



「うん……ちょっと熱が出たの」

『大丈夫か?』

「微熱で、少しダルいだけだから」


ごめんね、と謝ると、何で謝るんだと笑われた。


「何となく」

『何となくかよ』


クスクスと笑う蒼真の声にあたしは安心する。
やっぱり夢だとあの出来事を箱に封じ込めた。


『早く治せよ?』

「うん……」

『じゃあな、また連絡する』


うん、と返事をして蒼真が切るのを待った。
無機質な機械音に変わってからあたしも電話を切る。


「幸せな顔しちゃってー」


フワリと上着をかけられた。


「幸せそう?」

「最高に」


お母さんが言うならそう見えるのね。


――幸せ。


うん、幸せ。



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