ジキルハイド症候群
それに、名前を呼ばれる権利を与えたわけなかった。
沸々と込み上げてきた怒りを封じ込めながら、俺は会話をしてやることにした。
「大丈夫か?」
恵里以外に優しい言葉をかけるなんて反吐が出る。
『何とか……ねぇ蒼馬』
猫なで声にぞわっと鳥肌が立った。
ギリッと携帯を持つ手に力が入る。
それでも堪えている俺に拍手をしてほしいものだ。
「なんだ?」
『会いたいな……』
恵里もこんなに素直なら良いのにと思った。恵里に言われたら例え夜中でも会いに行くのに。
「………保健室か?」
『うん、待ってるから』
電話が切られる。
「っチッ」
荒々しく切って携帯を閉じる。
「誰からの電話かなぁ?」
茶化すような那祁の声に俺はニヤリと笑った。