ジキルハイド症候群
「嫌い以前の問題」
好きも嫌いもこの男に対して芽生えていない。
「ふ~ん。じゃあ、俺の所に来る?」
「………は?」
「ウソウソ。そんなことになったら蒼真に殴り殺されるから」
ケラケラ笑いながら那祁はコップの飲み物を全部飲み干した。
「ねぇ、恵里ちゃん。蒼真のこと見てやってよ」
「………」
「恵里ちゃんの気持ちも分かる。けど、そいつは今まで、恵里ちゃんに近づいた男とは違う」
ニコニコが柔らかい笑みに変わる。
女が見れば即ノックアウトな、笑み。
その笑みには、蒼真に対する優しさがにじみ出ていた。
「………何を根拠に」
それでも、あたしは信じられない。
「こいつね。ずっと恵里ちゃんが好きだったわけ」