ポリフォニー

『あ、リリス』

猫がラディウスを見つけて肩に飛び乗った。

「ん?ヘルか。散歩?」

『そそ。今までは表立って動けなかったからね』

「ふぅん」

興味無さそうにラディウスは相槌を打つと、猫は拗ねたようにラディウスの頭を尻尾ではたいた。

「なんだよ」

『記憶読ませていただいたんだけど』

ラディウスの文句を流して猫は言った。

『リリス、お前死ぬつもりだったろ?』

ラディウスは何も言わず、歩き出した。
猫も追求することなく、ラディウスに従う。
ラディウスが来たのはテラスだった。
そこから王都が一望できる。

「俺は、第二王子として、兄様の補佐、及び軍の指揮官をすることになっていた」

半年前までは、とラディウスは言った。

「だが、思い出したんだよ。母上の言葉をな」

『思い出したから、なんだよ』

「私のために産まれてきたのに、幻獣なんて宿すのか」

『は?』

「まだ幼かったからな。言葉の意味もわからないで忘れていた」

ラディウスが頭を抱える。

「抜かったんだ。母上は俺が5つのときに死んでいる。でも、この言葉さえ覚えていれば、事態はもっとよくなってたはずだ。少なくとも、モンスターが闇の幻獣の影響を受けて肥大化したりはしなかったはずなんだ」

『な、なんでそんな大事になるんだよ』

「俺が、リリスを宿していたことを知ったのは、半年前だ。それに、気づくべきだった。母上は、王家の血筋じゃないのに、銀灰色の髪を持っていた。しかも赤目だ。これの意味するところはどこにある?」

『おい、まさか……それって』

「だから、俺は死ぬべきだった。闇の幻獣王が召喚されようと、されなかろうと」
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