ポリフォニー
クルーエルは街を抜けた後、振り向いた。
焼けて、熱い街。
これから半年は冷めることはないだろうとラディウスは言った。

「ねぇ、私はこの街に住んでたのかな。友達とかいたのかな。家族とか、大事な人はいたのかな」

「そうだろう。お前は召喚術が使える以外はただの少女でしかない。家族もいれば、友もいただろう」

「そうだね……。憶えてないけど、なんだか少し寂しい。なのに胸はぽかぽかと暖かいんだよ。どうしてなのかな……。私、ひどいのかな」

「知らん」

ラディウスはそっぽを向いて歩き出す。
クルーエルはその後ろを慌てて追った。
でも、隣に並べそうな気はしなかった。
ラディウスはまだ、私に気を許してないんだ、と察する。

「だが、いつか思い出せば、二度と忘れないようにすればいい。思い出すことがなくなっても、自分のなかでずっと存在し続ければ、それが忘れたことへの罪滅ぼしにもなるだろう」

なにかが、はじけた音がした気がした。
青年としては決して高くない、でも自分から見ればとても大きな背中にいつか追いつけるようになれる気がした。
そのうち、隣を歩けるようにもなるだろう。
< 2 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop