ヴァージンチェリー
「食べっか?」
「いらない」

「そ」

タクは気を悪くした風もなく、私に差し出した蜜柑の一切れを口に放り込む。


「痛っ!」
「なに?」

「口、切ってるとこに染みた」


唇の端を指の腹でなぞりながら顔を顰める。

呑気なヤツだ。
傷心旅行なんて嘘なんじゃないかって疑ってしまう。

まぁ、嘘でもなんでも、一人じゃどこにも行けなかった私の背中を、押してくれたからいいけど。
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