この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-
あえて振り返らなくても分かるし、なぜだか負けた気分がしてならないけど。
「な、なんで入れたの!?」
「だってコレ、差しっ放し」
私の疑問符でニヤリと笑った祐くんの手には、見覚えありまくりの鍵が鈍く光った。
「親切心よ!」
「よく言う――のんはまったく警戒心ゼロ。
危ないから防犯性ゼロのココから引っ越した方が良いよ?」
「その前に襲われないから」
そう返してクルリ身を翻すと、ちょうど良く色づき香り立つ紅茶をカップへ注ぎ入れた。
確かに柚ちゃんのお下がり的マンションで、築年数は割と長いかもしれないし。
最新鋭の超高級タワーマンションに住む男からすれば、ココのセキュリティは信じられないほど緩いだろう。
盛大な溜め息を吐いてやろうと考えつつ、いつでも諦めるのはなぜですか…。