この涙を拭うのは、貴方でイイ。-大人の恋の罠-
“うるさい”の一言をグッと呑み込み、ピクピク引きつる口元を緩めると。
じつに愉快そうに見下げる男と目が合えば、今度はドキドキする自分こそ何…?
「お帰り、くらい言ってよ?」
「お、お帰り!」
「うん、ただいま」
ああ、もうダメ。昔からこの笑顔には弱い――…
「あの…お仕事中なのに、本当にすみません」
ピリピリとしたムードを感じたのだろうか。
一礼してから、私たちの間へ入ってきた蘭さんの声は恐縮していて。
「え!?い、いえ…!
せ、先日はありがとうございました――って、あああ!」
同性ながら思わず見惚れかけていれば、ここで重大な一件を思い出した。
蘭さんがガラスの靴のように忘れた、あの高級ストール…!